日本医療法人協会ニュース 2026年5月号

■巻頭言
鬼塚一郎 日本医療法人協会 常務理事/社会医療法人聖峰会 田主丸中央病院 理事長
■中小医療機関が直面するサイバーセキュリティー課題と対策
序論 小森直之
日本医療法人協会 副会長/ Health ISAC Japan 代表理事/医療法人恵仁会なぎ辻病院 理事長
論考① 江原悠介 HealthI SAC Japan 事務局長
論考② 宇賀神敦 医療Alプラットフォーム技術研究組合 理事長
■緊急インタビュー「有料職業紹介事業の適正化とハローワークの機能強化に関する要望書」を提示 小森直之 日本医療法人協会 副会長
■要望書
■2026年度第1回経営講座のこ案内
●独立行政法人福祉医療機構貸付利率表
●編集後記
日本医療法人協会 常務理事
社会医療法人聖峰会 田主丸中央病院 理事長
鬼塚 一郎従来の地域医療構想には、「まず病床削減ありき」という印象が色濃くあった。背景には、 病床、特に急性期病床を減らせば医療費を抑制できるという発想があったのではないか、という見方がなされるのも無理はない。実際、地域医療構想調整会議が始まって以降、特に急性期病床が一定程度削減されてきたことは事実である。
しかし、それは調整会議の成果というよりも、 診療報酬による誘導の中で、多くの民間病院が 地域のニーズや競合環境を踏まえ、経営上の判断として高度急性期・急性期病床を縮小し、回復期リハビリテーションや在宅医療へと機能転換を進めた結果と見るべきではないだろうか。 かたや、思い出していただきたい。コロナ禍で病床不足が社会問題となったのは、つい最近のことだ。さらに、昨今の国際情勢を踏まえれば、戦争を含む有事は決して遠い未来の話ではない。
そのような中で、現在のような医療体制の効率化・スリム化一辺倒で本当に良いのだろうか。 有事に備えるには、軍事力の強化だけでは足りない。自国で食料を安定的に確保できるのか、 医療が非常時に耐え得る体制を維持できているのか、多数の負傷者が発生した際に、外科医をはじめとする人的資源と病床を確保できるのか。 医療というインフラをいかに維持し、強化していくかが、今あらためて問われている。
昨年はコメの価格高騰が大きな問題となった が、長年の減反政策が第一次産業の脆弱化を招き、食料安全保障上のリスクを高めてきたことは広く指摘されている。病床削減もまた、いざという時に同様の問題を引き起こしかねない。
病院や医療設備、病床といったハード面だけでなく、医療人材の技術継承という視点も欠かせない。医療費抑制を優先してきた結果、優秀な人材が美容医療などの自由診療分野や医療界の外へ流出し、特に外科医不足は深刻さを増している。外科医の「匠の技」は、ー朝ータに身につくものではなく、日々の積み重ねと継承によって支えられている。
また、一度失われた病院機能や現場のノウハウも、容易に取り戻せるものではない。いざという時に準備を始めても間に合わないのである。 経済学者・宇沢弘文氏が提唱した「社会的共通資本」という概念がある。医療・介護は「国の消費」ではなく、社会そのものを支える基盤であるという考え方である。自動車産業において販売台数の増加が国力の象徴と捉えられるように、医療費や社会保障費の増加もまた、決して消費や浪費ではなく、国力の向上を示す指標として評価されてよいはずである。
2027年度から始まる「新たな地域医療構想」に向けて、2026年度から本格的な実装作業が始まる。そこでは従来の病床単位ではなく、病院ごとの機能分化や介護との連携など、これまでとは異なる視点から医療提供体制を再構築しようとしている点で評価に値する。
しかし同時に、これまでの病床削減一辺倒の考え方から脱却することも重要である。病床削減ありき、医療費削減ありきの発想を脱し、医療や社会保障を「社会的共通資本」として位 置づけ直す。その大きな転換点となることを期待したい。
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